7時半起床。
朝食は山形県産の農協牛乳。

10時前にホテルをチェックアウトする。今日はぐずついた天気になりそうである。

「珈琲店コフィア」へ伺う。吉祥寺の「もか」で修業された方が営むお店だそうで、私が鶴岡へ行くと知った珈琲好きの同僚がおすすめしてくださった。

この光景と店内に漂う香りからだけでも良いお店だということがよくわかる。

メニューはコーヒーのみ。潔い。

マンデリン(スマトラ)を頂く。きりん珈琲と比較するためによく飲んでいる品種を選んだのだが、全く異なる味だった。苦みはほとんど感じず、濃厚でまろやかなコクがが印象的で、ネルドリップなので余韻がまったりと残る。どちらが良いとかではなく、焙煎と抽出方法の違いでここまで味が変わるのかと驚かされた。

珈琲って面白い。

駅前へ戻り、鶴岡市内循環バスに乗る。1本前のAルートはほぼ満席だったが、私が乗るCルートは貸切状態である。

協立病院停留所で下車。ここから目的地までは約1.8キロ歩く。グリーン車には課金できるのに、タクシー代は少しでも節約したい。

問題は、雨に降られないかどうかである。もちろん傘など持っていない。

人生は思い通りにならないものである。

一応ダウンもスニーカーも防水仕様なので、開き直ってお散歩を楽しむ。

遠くに月山が見えてきた。

2/3ほど歩いたところで雨が強くなってきたので、遠賀神社で少し雨宿りをさせて頂く。

歩いている間は気付かなかったが、立ち止まると急激に寒さを感じる。

忠魂碑に手を合わせる。地元出身の陸軍大尉さんが中心となって建立されたそうで、日中日露戦争の戦没者を慰霊するものである。

ほどなくして雨が上がった。神様、ありがとうございます。お世話になりました。

目的地へ向けてラストスパート。

次はこの地域のお米を買ってみよう。今年の出来はいかがでしょうか。

目的地のレストラン「アル・ケッチァーノ」(Al ché-cciano)に到着。

地産地消のパイオニアのお一人である奥田政行シェフが経営するイタリアンレストラングループの総本山である。

私が前職に就職した2010年頃は全国的に地産地消の取組みに注目が集まり始めた時期で、政策的にも「地域資源活用」という言葉がよく聞かれるようになっていた。新米の私も上司や先輩にくっついてその取組みの支援に携わっており、当時から「いつかアル・ケッチァーノに行ってみたいね」と話をしていたことをよく覚えている。

そう考えると、今回の訪問は15年越しの念願だったということになる。

いざ入店。オープンの5分ほど前に着いてしまったのだが、快く入れてくださった。

田園風景と月山がよく見える特等席である。

ちょっと緊張してきた。

「アル・ケッチァーノ フルコースの考え方」をじっくり読む。
1.使う塩はトータルで一定
フルコースで使う下処理、下味意外の塩は、全量3gまでと決めています。
2.ひと皿は三つの食材で構成する
食材の持ち味を大切にしたいので、ひと皿の中の食材の数を三つで構成します。
3.最低限の手数で料理する
料理に人間の香りを移したくないので、食材に触れる回数は必要最低限にします。植物のグルタミン酸の旨味に、動物性タンパク質のイノシン酸、そして塩と油脂分を組み合わせて、調味料をできるかぎり使わない。こうして食材と食材の味をクロスさせ味を増幅させることで、手数を少なくします。
4.料理の全体量を450グラムに
最後までおいしく感じていただきたいので、フルコース全体の重さを炭水化物のパスタまたはリゾットを抜いて400gにします(肉80g、魚60g、付け合わせ50g、アンティバスト30g×5品)。全体ではリゾット40g、パスタ70gを入れて450gまでとし、これにワイン550mlを入れて1kgになります。
5.ひと皿のカロリーをできるだけ低く
最後まで楽しく食べていただきたいので、お腹が途中で重くならないように、消化のよい料理にして、ひと皿ごとのカロリーを少なくします。
6.フルコースは音楽のアルバムのように
ほのぼのする味、ハッとする味、しみじみする味というように、ひと皿ごとに味のキャラクターを決めて、音楽のアルバムの曲の順番を決める感覚で、フルコース全体をどのように展開するか考えます。
7.味のパターンで構成する
一つの料理における味の組み合わせのパターンは、ひと皿ごとに変えていきます。油が多い料理の次は酸っぱい料理とか、味付けの濃い料理の次は塩味を付けないなどのように、甘味、塩味、旨味、油脂分、酸味、苦味、焦げ味、食感の8つの味の要素をもとに、一つの味の要素を抜いたら次のその抜けた味が出てくるようにして、多皿を組み立てます。
8.食材を引き立てるゆで論パスタ
パスタ料理は、ゆで論というオリジナルのパスタのゆで方の法則を使い、「ツルッ、プリッ、ポンッ」とした食感をパスタに持たせ、アルデンテよりも少し中に火を入れた、キレ味のよい香りあるパスタを目指します。パスタそのものはあくまで具材を主役にするものです。
9.透明感を持たせる
味は透明であることを大切にし、味付けはキレ味のよい、食材の持ち味を前面に出した潔い味、そして食材の香りを後味に漂わせることを理想とします。
今回は最も定番のコースメニューを頂く。

メインは羊のロースト、パスタはトマトと菊のフェデリーニを選ぶ。

最初の飲み物は、奥田シェフ監修のオリジナルノンアルコールワイン「フィノ」の白。ノンアルコールワインなんて結局はちょっと苦くて渋みのあるぶどうジュースでしょ…と思いきや、すっきりしつつも濃厚で美味しい。

1品目はメニューにないサービス。昨日、スタッフの皆さんは研修でかみのやま(上山)の「ウッディファーム」というぶどう農園&ワイナリーを訪問したそうで、そこで採ったシャインマスカットが提供された。温かいシャインマスカットの上にチーズ(品種も教えて頂いたのだが忘れた)がのっており、甘さと香りが口から頭に抜けていく。

ここからが正規の1品目。「スズキの冷製カッペリーニ」。最初からパスタが出てくるのは珍しい。この料理はアル・ケッチァーノの自己紹介のようなもので、素材の味を活かすために塩とオリーブオイルのみで味付けしている。塩でスズキのエキスを引き出してパスタにしみこませ、オリーブオイルでまとめることで全体に旨みが行き渡っている。

語彙力がないのでうまく表現できないが、これはちょっと本当に美味しい。

「サーモンの43℃調理 アボカドキュウリ」。サーモンは45℃でタンパク質が固まっていわゆる焼き鮭になるそうだが、その直前ギリギリの温度で加熱することでレアな食感を保っている。

炙りサーモン的なことかと思いきや、全く違う。加熱されたことで甘みのある脂がしみ出しているが、食感はお刺身という良いとこ取り。そして、アボカドで和えたキュウリがそのまま食べても美味しいし、サーモンとの相性も抜群である。

2杯目は「あるけっ茶」。静岡県産の緑茶を黒麹菌で発酵させたもので、味は緑茶に近いが紅茶のような香り高さもある。

「イチジクとうちのヤギのリコッタチーズ」。アル・ケッチァーノでは3頭の山羊を飼育しており、毎朝ミルクを搾ってそこからリコッタチーズを作っているそうだ。

イチジクとフェンネルを合わせて食べる。チーズはしっとりとした食感でコクがあり、後からミルクの甘みがやってくる。

「栗のリゾット」。無農薬の地元産ハエヌキを栗の皮から取った出汁でリゾットにしている。

上にはコッパ(豚肩ロースの生ハム)とローズマリーが添えられている。栗の味が全体にしみわたり、そこにコッパの塩味が良いアクセントになっている。お茶碗いっぱい食べたい。

「キジハタのヴァポーレ バーニャカウダソース」。庄内浜で水揚げされた天然のキジハタの上にミックスハーブを合わせ、ソースはカリフラワーのピューレに魚醤を加えている。

焼き魚に醤油が合うから当然といえば当然なのだが、魚醤の旨みがキジハタを引き立たせている。

メインの前にノンアルコールワイン「フィノ」の赤。白と同じく、今まで飲んだノンアルコールワインの中で抜群に美味しい。

「日本一丸山さんの羊のロースト」。鶴岡産のだだちゃ豆のさやを食べ、月山高原でのびのび育てられた丸山さん(月山高原花沢ファーム)の羽黒緬羊。だだちゃ豆のさやを食べさせることで肉質が柔らかくなり、抗酸化作用で臭みも出ないそうだ。今日のローストは「フォゲット」という生後12~24ヵ月のお肉(ラムとマトンの間くらい)を使用している。

肉々しさがしっかりあり、何より脂が甘くて美味しい。元々羊は好きだが、ここまで美味しいものは初めて食べた。

トマトと菊のフェデリーニ。昨晩「寿しの長三郎」でお通しとして出てきた「もって菊」がふんだんに使われている。

塩とオリーブオイルというシンプルな味付けなのだが、だからこそ菊やトマトの味がしっかり感じられる。前菜のカッペリーニしかり、ここではパスタも素材を引き立てるための脇役になっている。

本日のドルチェは里芋のアイス。アイスだけでも里芋の甘さがほんのりあって美味しいが、キャラメールムースと合わせると更にインパクトが強くなる。

珈琲と迷ったが、せっかくなので2杯目のあるけっ茶で〆る。

期待を超える美味しさ、至福の2時間だった。

時刻は13時半過ぎ。後編へ続く。
